初めて従業員を迎えることになったら、入社に向けてどの手続きを先に進めればよいのでしょうか。必要な手続きは、事業の形や雇う人の働き方によって異なります。税金・労働保険・社会保険で提出先も期限も違うため、入社日と加入の条件を確かめ、期限の短いものから準備しましょう。
この記事では、最初の1人を雇う際の届出を提出先・期限・対象ごとに一覧で確認できます。法人と個人事業主の違いや、最初の給与を払う前に社内でそろえる書類もまとめます。
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手続きの全体像:4か所の届出と期限の一覧
最初の従業員を雇ったときの主な届出は、次のとおりです(労災保険と雇用保険をまとめて扱う、一般的な「一元適用事業」の場合)。
| 届出・手続き | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 所轄の税務署 | 開設の事実があった日から1か月以内 |
| 労働保険の保険関係成立届 | 所轄の労働基準監督署 | 保険関係が成立した日の翌日から10日以内 |
| 労働保険の概算保険料申告書(申告・納付) | 労働基準監督署・都道府県労働局・日本銀行(代理店を含む)のいずれか | 保険関係が成立した日の翌日から50日以内 |
| 雇用保険適用事業所設置届 | 所轄の公共職業安定所(ハローワーク) | 設置の日の翌日から10日以内 |
| 雇用保険被保険者資格取得届 | 所轄のハローワーク | 被保険者となった日の属する月の翌月10日まで |
| 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 | 事実発生から5日以内 |
このほか、従業員本人からは、最初の給与の支払日の前日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を受け取ります。給与から源泉徴収した所得税は、原則として給与を支払った月の翌月10日までに納付します。
農林漁業・建設業などは、労災保険と雇用保険の手続きを別々に行う「二元適用事業」になり、提出先の組み合わせが変わります。業種が当てはまる場合は、厚生労働省の案内で手順を確認してください。
税務署:給与支払事務所等の開設届と源泉徴収の準備
給与支払事務所等の開設届出書
国内で給与等の支払事務を取り扱う事務所などを設けた者は、その事実があった日から1か月以内に、届出書を税務署長に提出しなければなりません(所得税法230条)。提出先は、給与支払事務所等の所在地の所轄税務署です。
法人の場合、役員報酬も給与等に含まれるので、設立後に役員報酬を払い始めた時点で、すでにこの届出を出していることがあります。提出済みかどうかは控えで確認します。個人事業主が初めて人を雇って給与を払う場合は、給与の支払事務を扱うことになった時点で、この届出が必要かを確認してください。
扶養控除等申告書を受け取る
従業員には、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を、その年の最初に給与の支払を受ける日の前日(中途就職の場合は、就職後最初の給与の支払を受ける日の前日)までに出してもらいます。この申告書は、税務署や市区町村から特に求められた場合以外は提出せず、給与の支払者が保管します。
申告書の有無で、源泉徴収の計算に使う欄が変わります。国税庁の国税庁『No.2511 税額表の種類と使い方』では、申告書を提出している人に支払う給与は「甲欄」、その他の人に支払う給与は「乙欄」を使うとされています。また、税額表に当てはめる金額は、給与の額から社会保険料等を控除した後の金額です。
源泉所得税の納付と納期の特例
源泉徴収した所得税は、原則として給与などを実際に支払った月の翌月10日までに納めます。給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者は、申請により、1月から6月までの分を7月10日、7月から12月までの分を翌年1月20日にまとめて納める「納期の特例」を受けられます。特例の対象は、給与・退職金と、税理士・弁護士・司法書士など一定の報酬から源泉徴収した分に限られます。それ以外の報酬・料金(原稿料・デザイン料など)から源泉徴収した分は、特例の承認を受けていても翌月10日までに納めます。
特例は、申請書を提出した月の翌月に源泉徴収する分から対象になります。申請した月の分は、原則どおり翌月10日までに納める点に注意してください。外注先への報酬の源泉徴収と特例の関係は、デザイナーへの支払いと源泉徴収・納期の特例で扱っています。
労働基準監督署:労働保険の成立手続
厚生労働省は、労働者を一人でも雇用していれば労働保険に加入する必要がある、と案内しています。労働保険は労災保険と雇用保険の総称で、最初の従業員を雇った時点で、事業として労働保険の適用事業になります。
手続きの順番は次のとおりです。
- 保険関係成立届を、保険関係が成立した日の翌日から10日以内に、所轄の労働基準監督署へ提出する
- その年度分の労働保険料を、概算保険料申告書で申告・納付する(成立した日の翌日から50日以内)
概算保険料は、保険関係が成立した日からその年度の末日までに労働者に支払う賃金の総額の見込額に、保険料率を掛けた額です。成立届の手続きを行った後か同時に、概算保険料の申告を行います。このほか、労働保険には毎年の「年度更新」の手続きもあるので、成立の手続きが済んだら、時期を厚生労働省や労働局の案内で確認しておきます。
ハローワーク:雇用保険の適用事業所設置届と資格取得届
雇用保険は、次の2つのいずれにも当てはまる労働者が被保険者になります。
- 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる(期間の定めがない、雇用期間が31日以上、更新規定があり31日未満での雇止めの明示がない、など)
- 1週間の所定労働時間が20時間以上である
この基準に当てはまる人を雇ったら、労働保険の成立手続をした後に、雇用保険適用事業所設置届(設置の日の翌日から10日以内)と、雇用保険被保険者資格取得届(被保険者となった日の属する月の翌月10日まで)を、所轄のハローワークに提出します。
厚生労働省は、適用基準を満たす労働者については、事業主や労働者の意思に関係なく、被保険者となった旨を届け出なければならないとしています。資格取得の確認がされると「雇用保険資格取得等確認通知書(被保険者通知用)」が交付されるので、本人に確実に渡します。週の所定労働時間が20時間未満のパートなど、基準に当てはまらない人は、雇用保険の資格取得届の対象になりません。労働保険の成立手続は、雇用保険の基準とは別に、労働者を雇った時点で必要です。
年金事務所:健康保険・厚生年金保険の資格取得届
法人と個人事業主で、そもそもの適用が違う
年金機構『適用事業所と被保険者』によると、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて厚生年金保険の適用事業所です。個人の事業所は、従業員が常時5人以上いる場合に、農林漁業・サービス業などの場合を除いて適用事業所になります。
つまり法人は、設立の時点で(社長1人でも)適用事業所であり、本来は設立時に新規適用の手続きを済ませているはずです。まだの場合は、従業員の資格取得の前に事業所としての手続きが必要です。設立時の手続きは会社設立後の社会保険手続きガイドで扱っています。個人事業主で従業員が常時5人未満の場合は、強制適用ではありません(任意で適用事業所になる仕組みはあります)。
被保険者になる人と、資格取得届
適用事業所に常用的に使用される70歳未満の人は、厚生年金保険の被保険者になります。試用期間中でも、報酬が支払われる場合は使用関係が認められます。パートタイマー・アルバイトなどは、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務をする通常の労働者の4分の3以上であれば被保険者です。特定適用事業所などでは、4分の3未満でも週の所定労働時間が20時間以上で学生でない場合は被保険者になる、という別の基準があります。
被保険者になる人を雇ったら、事業主が「被保険者資格取得届」を、事実発生から5日以内に事務センターまたは管轄の年金事務所へ提出します。従業員が配偶者や子を扶養していて被扶養者の要件を満たす場合は、従業員から事業主へ「健康保険被扶養者(異動)届」を出してもらいます。4か所の届出の中で最も期限が短いので、雇用契約を結んだら、基礎年金番号通知書(年金手帳)かマイナンバーカードの提示を早めに受けておきます。
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雇う前後に社内でそろえるもの
役所への届出とは別に、労働基準法で使用者に求められている書類があります。
| 書類 | 根拠 | 中身 |
|---|---|---|
| 労働条件の明示(労働条件通知書など) | 労働基準法15条 | 労働契約の締結に際し、賃金・労働時間その他の労働条件を明示する。賃金・労働時間などは厚生労働省令で定める方法による |
| 労働者名簿 | 労働基準法107条 | 事業場ごとに、氏名・生年月日・履歴などを記入。変更があれば遅滞なく訂正 |
| 賃金台帳 | 労働基準法108条 | 事業場ごとに、賃金計算の基礎となる事項や賃金の額などを、賃金支払の都度遅滞なく記入 |
給与計算の準備として、締め日と支払日、社会保険料・雇用保険料の本人負担分の控除、源泉徴収の方法(甲欄・乙欄)を、最初の給与の前に決めておきます。給与の支払日は、源泉所得税の納付期限(翌月10日、特例なら7月10日・1月20日)の起点になります。
手続きを誰に頼めるか:資格の線引き
これらの届出は、事業主が自分で行うこともできます。外部に頼む場合は、手続きの種類によって頼める専門家が分かれます。
- 労働保険・社会保険(健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険)の届出書の作成や提出の代行は、社会保険労務士の業務です(社会保険労務士法2条)。厚生労働省も、労働保険の届出等の事務処理には労働保険事務組合や社会保険労務士を利用することもできる、と案内しています。
- 税務署へ出す届出書・申請書の作成、源泉徴収など税金の計算に関する相談は、税理士の業務です(税理士法2条)。
給与計算そのものを外部に任せる場合も、社会保険の届出は社会保険労務士、税務署への届出は税理士、と窓口が分かれることがあります。どこまで社内で行い、どこを誰に頼むかは、雇う人数や今後の採用の予定で変わります。
まとめ:最初の1人を雇ったら、期限の短い届出から順に
- 健康保険・厚生年金保険の資格取得届は事実発生から5日以内(法人は社長1人でも適用事業所)
- 労働保険の保険関係成立届は成立した日の翌日から10日以内、概算保険料の申告・納付は50日以内
- 雇用保険は週20時間以上・31日以上の雇用見込みが基準。設置届は10日以内、資格取得届は翌月10日まで
- 給与支払事務所等の開設届出書は開設から1か月以内。法人は役員報酬の支払い開始時に出していないか確認
- 扶養控除等申告書は最初の給与の支払日の前日までに受け取る。無ければ乙欄
- 源泉所得税は翌月10日まで。常時10人未満なら納期の特例を申請できる(対象は給与・退職金と一定の士業の報酬の分。申請月の翌月の源泉徴収分から)
期限が近いものから並べてカレンダーに入れておくと、漏れを防げます。
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よくある質問
Q. 週に数時間だけのアルバイト1人でも、労働保険の手続きは要りますか?
厚生労働省は、労働者を一人でも雇用していれば労働保険に加入する必要がある、としています。そのため保険関係成立届と概算保険料の申告は必要です。一方、雇用保険の被保険者になるのは週の所定労働時間が20時間以上などの基準に当てはまる人なので、雇用保険の資格取得届が要るかは、その人の働き方で判断します。
Q. 試用期間中は社会保険に入れなくてもよいですか?
年金機構は、試用期間中でも報酬が支払われる場合は使用関係が認められる、としています。適用事業所で被保険者の要件に当てはまる人であれば、試用期間の初日から資格取得の対象になるので、5日以内に資格取得届を出します。
Q. 従業員が扶養控除等申告書を出してくれない場合はどうなりますか?
申告書の提出が無い人に支払う給与は、源泉徴収税額表の「乙欄」で税額を求めます。甲欄と乙欄では税額の求め方が違うので、最初の給与の前に、申告書の意味と提出期限を本人に説明しておきます。
Q. 源泉所得税の納期の特例は、いつ申請すればよいですか?
特例は、申請書を出した月の翌月に源泉徴収する分から対象になり、税務署長から却下の通知が無ければ、提出した月の翌月末日に承認があったものとみなされます。申請した月に源泉徴収した分は、原則どおり翌月10日までに納めます。最初の給与を払う月より前に申請しておくと、切り替えの月の納付で迷わずに済みます。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月23日
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