整骨院・接骨院・鍼灸院で、保険の入金が翌年になると売上も翌年に入れるのか迷っていませんか。療養費は原則として、入金した年ではなく施術した年の売上にします。消費税も、保険の対象となる施術と、自費施術・物販では扱いが異なります。
この記事では、療養費の計上時期、自費施術や物販の消費税、窓口現金の管理を整理します。医療機関全般の税務は医療・クリニック・歯科の税務もご覧ください。
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施術所の売上は3つに分かれる
柔道整復の施術で保険の対象になるのは、骨折、脱臼、打撲及び捻挫(いわゆる肉ばなれを含む。)です。骨折と脱臼は、緊急の場合を除き、あらかじめ医師の同意を得ることが必要です。単なる肩こりや筋肉疲労などに対する施術は保険の対象にならず、全額自己負担になります。
はり・きゅうは、神経痛、リウマチ、頸腕症候群、五十肩、腰痛症及び頸椎捻挫後遺症等の慢性的な疼痛を主症とする疾患の治療が保険の対象で、あらかじめ医師の発行した同意書又は診断書が必要です(厚生労働省「柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱いについて」)。
療養費は、本来、患者が費用の全額を支払った後に自分で保険者へ請求する「償還払い」が原則です。柔道整復は例外として、患者が自己負担分を施術所に支払い、柔道整復師が残りの費用を保険者に請求する「受領委任」が認められています。はり・きゅう、あん摩マッサージ指圧でも平成31年1月1日から受領委任制度の取扱いが始まりましたが、制度への参加とその時期は保険者等によって異なります。
| 売上の区分 | 受け取る相手 | 入金の時期 | 消費税 |
|---|---|---|---|
| 療養費(受領委任の保険者負担分) | 保険者等 | 施術所が請求し、支給された後 | 非課税 |
| 一部負担金 | 患者(窓口) | 施術のつど | 非課税 |
| 自費施術(保険の対象外) | 患者(窓口) | 施術のつど | 課税 |
| 物販(施術とは別に販売する商品) | 患者(窓口) | 販売のつど | 課税 |
この4つを、レジ・帳簿・会計ソフトの段階で分けておくことが、以下の論点すべての前提になります。
療養費は施術した年(事業年度)の売上にする
受領委任では、施術所が療養費を保険者等に請求し、支給を受けてから入金されます。施術した月と入金される月がずれるため、売上をいつ計上するかは、入金日ではなく施術をした日で考えます。
個人の場合
所得税基本通達36−8は、事業所得の総収入金額の収入すべき時期について、人的役務の提供(請負を除く。)による収入金額は「その人的役務の提供を完了した日」によるとしています。施術は人的役務の提供に当たるため、12月に施術した分の療養費は、入金が翌年になってもその年の収入金額になります。年末には、請求済みで未入金の療養費と、まだ請求していない12月施術分を集計し、未収金として売上に含めます。
法人の場合
法人税法22条の2第1項は、役務の提供に係る収益の額を、別段の定めがあるものを除き、役務の提供の日の属する事業年度の益金の額に算入するとしています。決算月に施術した分の療養費は、入金が翌期になっても、その事業年度の売上に計上します。
請求額と入金額を突き合わせる
療養費の額は保険者が定め、支給も保険者が決めるため(健康保険法87条)、請求した額と入金額が一致しないことがあります。保険者等ごとに請求額の一覧を作り、入金のたびに消し込むと、未入金や差額が残っている請求を見つけやすくなります。差額が出たときは、保険者等からの通知などで理由を確かめてから処理を決めます。
個人の現金主義の特例
個人には、所得税法67条の「小規模事業者等の収入及び費用の帰属時期」の特例があります。青色申告の承認を受けている人のうち、前々年分の不動産所得の金額と事業所得の金額の合計額が300万円以下などの要件に当てはまる人は、その年に実際に収入した金額と支出した費用の額で所得を計算できます。
ただし、取引を詳細に記録している人向けの青色申告特別控除(租税特別措置法25条の2第3項)は、対象から「所得税法第六十七条第一項の規定の適用を受ける者」を除いています。特例を選ぶかどうかは、控除の違いも含めて数字で試算しないと決まりません。
窓口の一部負担金も非課税、自費施術と物販は課税
消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に課され(消費税法4条)、別表第二に掲げるものは非課税です(同6条)。医療関係の非課税の範囲について、国税庁「消費税法基本通達 第6節 医療の給付等関係」の6−6−1は、健康保険法、国民健康保険法等の規定に基づく療養費などの支給に係る療養を挙げています。
保険者等から入る療養費だけでなく、窓口で受け取る一部負担金も非課税です。通達6−6−3は、非課税となる療養には、被保険者が負担する一部負担金に係る療養も含まれるとしています。
通達6−6−1は「療養費…の支給に係る療養」と書いており、受領委任か償還払いかで非課税の範囲を書き分けてはいません。償還払いの患者から窓口で全額を受け取る場合も、保険の施術として区分しておきます。
労災・交通事故の施術
通達6−6−1は、労働者災害補償保険法の規定に基づく療養の費用の支給に係る療養や、自動車損害賠償保障法の規定による損害賠償額の支払を受けるべき被害者に対する当該支払に係る療養も、非課税の範囲に挙げています。国税庁タックスアンサー「No.6201 非課税となる取引」も、労災保険、自賠責保険の対象となる医療を非課税の例にしています。
自費施術と物販
保険の対象にならない施術(単なる肩こりや筋肉疲労などで全額自己負担となる施術)は、通達6−6−1に掲げる療養に当たらないため、課税売上になります。同じタックスアンサーも、美容整形や差額ベッドの料金などは非課税取引に当たらないとしています。
物販も同じです。通達6−6−2は、療養等に該当しない医薬品の販売や医療用具の販売等は課税資産の譲渡等に該当するとしています(身体障害者用物品の譲渡等に当たるものを除く)。施術とは別に販売するサポーターや健康用品などは、課税売上として区分します。
消費税の納税義務と簡易課税の事業区分
消費税の納税義務は、基準期間(個人は前々年、事業年度が1年の法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下であれば、原則として免除されます。課税売上高は課税資産の譲渡等の対価の額をもとに計算し(消費税法9条2項)、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち6条1項で非課税とされるもの以外のものをいいます(同2条1項9号)。判定に使うのは自費施術と物販の売上で、療養費と一部負担金は含めません。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合や、適格請求書発行事業者の登録を受けている場合は、納税義務は免除されません。特定期間は、個人は前年の1月1日から6月30日まで、法人は原則として前事業年度開始の日以後6か月の期間で、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額で判定することもできます。課税事業者になるときの届出は消費税の課税事業者届出書の書き方で扱っています。
簡易課税を選ぶ場合の事業区分
課税事業者は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間について、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出して簡易課税を選べます。届出は、原則として適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出します。
簡易課税のみなし仕入率は、第2種事業が80パーセント、第5種事業が50パーセントなど、事業の種類ごとに決まっています。国税庁の質疑応答事例「日本標準産業分類からみた事業区分(大分類-O教育、学習支援業、P医療、福祉ほか)」では、中分類「医療業」の小分類のうち「療術業〔835〕」などが第五種事業とされています。令和5年7月告示の日本標準産業分類では、〔835〕は「施術業」という名称で、その中に「あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所」があります。
物販のうち、他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する小売業は第2種事業です。2種類以上の事業を行う場合は、帳簿に事業の種類を記載するなどの方法で事業の種類ごとの課税売上高を区分します。本則課税と簡易課税のどちらが有利かは、数字で試算しないと決まりません。仕組みは簡易課税制度のメリット・デメリットで扱っています。
窓口現金の管理
窓口のレジには、非課税の一部負担金と、課税の自費施術・物販の代金が一緒に入ります。区分と金額の両方を日々確かめられる仕組みにしておくと、記帳の正確さと療養費の請求の裏付けの両方に役立ちます。
一部負担金の受け取り方には決まりがある
受領委任の取扱いを定めた厚生労働省の通知では、患者から支払いを受ける一部負担金について、減免又は超過して徴収しないこととされています。窓口で一部負担金を支払う場合の金額は、10円未満四捨五入の取扱いです。
一部負担金の支払を受けるときは、正当な理由がない限り、領収証を無償で交付します。明細書交付機能が付与されているレセプトコンピュータを設置している施術所では、一部負担金等の費用の支払いを受けるごとに明細書を交付することが原則とされています。
施術録と領収証の控えは療養費の確認にも使われる
受領委任に係る施術の施術録は、ほかの施術録と区別して整理し、施術が完結した日から5年間保存します。また、保険者等又は柔整審査会は、施術の事実等を確認する必要がある場合に、領収証の発行履歴や来院簿その他通院の履歴が分かる資料の提示及び閲覧を求めることができるとされています。窓口の記録は、税務だけでなく療養費の請求の裏付けにもなります。
日々の締めで確認すること
- レジの現金と、その日に発行した領収証の合計が一致しているか
- 一部負担金、自費施術、物販の3つに分けた日計を作っているか
- 来院簿・施術録の件数と、領収証の発行件数が合っているか
- 釣り銭用の現金と、売上の現金を分けて数えているか
- 売上の現金を預け入れた日と金額が、帳簿の記録と合っているか
白色申告の人も、収入金額や必要経費に関する日々の取引を記帳する必要があります。記帳は一つ一つの取引ごとではなく、日々の合計金額をまとめて記載するなどの簡易な方法でもよいとされています。消費税の課税事業者であれば、日々の合計も課税と非課税に分けて残します。
国税庁は、個人で事業を行う人向けの案内で、令和5年分の確定申告に対する修正申告等から、売上げに関する帳簿を保存していなかったことや帳簿の売上げについて記載が不十分であったことなどが税務調査で把握された場合、通常課される加算税の割合に5%又は10%が加重されると案内しています。窓口の現金売上は、日計と帳簿がつながる形で残しておきます。
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まとめ:売上を区分してから記帳する
- 売上は療養費、一部負担金、自費施術、物販に分けて記録する
- 療養費は入金日ではなく施術した年(事業年度)の売上にし、年末・期末は未収分を集計する
- 療養費と一部負担金は非課税で、労災・自賠責の療養も非課税の範囲に入る。自費施術と物販は課税
- 消費税の納税義務と簡易課税の判定は、自費施術と物販の課税売上高で行う
- 窓口現金は領収証の発行履歴・来院簿と日々突き合わせ、区分ごとの日計を残す
開業するときや、自費施術・物販の割合が変わるときは、課税売上高の見込みを出してから、消費税の届出の要否を確かめてください。
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よくある質問
Q. 12月に施術した分の療養費が翌年に入金されました。どちらの年の売上ですか?
施術した年の売上です。所得税基本通達36−8は、人的役務の提供による収入金額の収入すべき時期を、その人的役務の提供を完了した日としています。所得税法67条の現金主義の特例を選んでいる人は、実際に収入した年で計算します。
Q. 自費の施術にも消費税がかかりますか?
保険の対象にならない施術は、消費税法基本通達6−6−1の療養に当たらないため課税売上になります。ただし、納税義務が免除される事業者は、消費税を納める必要がありません。
Q. 交通事故(自賠責)や労災の施術は消費税がかかりますか?
通達6−6−1は、自動車損害賠償保障法の規定による損害賠償額の支払を受けるべき被害者に対する当該支払に係る療養と、労働者災害補償保険法の規定に基づく療養の費用の支給に係る療養を非課税の範囲に挙げています。
Q. 窓口の一部負担金を割り引いてもよいですか?
受領委任の取扱いを定めた厚生労働省の通知では、患者から支払いを受ける一部負担金を減免又は超過して徴収しないこととされています。
Q. 療養費と一部負担金は、消費税の納税義務の判定に含めますか?
含めません。納税義務の判定に使う課税売上高は、課税資産の譲渡等の対価の額をもとに計算し、非課税の療養費と一部負担金は課税資産の譲渡等に当たらないためです。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月28日
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