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無申告の年に払った経費は認められるか|記録が残っていない場合の整理

税務調査
無申告の年に払った経費は認められるか|記録が残っていない場合の整理
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何年も確定申告をしておらず、領収書も残っていないと、払った経費を差し引けるのか不安になりますよね。個人事業主が後から申告する場合も、事業に必要な経費は差し引いて計算します。ただし、支出の事実や仕事との関係を、残った資料で説明できることが大切です。

この記事では、通帳やカード明細から過去の経費を整理し直す手順を紹介します。

経費の範囲はe-Gov法令検索『所得税法』37条が根拠です。基本的な考え方は国税庁タックスアンサー No.2210「必要経費の知識」で確認できます。紛失時の対応は領収書をなくしたら経費にならない?もご覧ください。

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無申告の年でも経費は差し引ける:計算の式は同じ

所得税法27条2項は、事業所得の金額を「その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額」と定めています。期限までに申告しなかった人も、税務署長の決定があるまでは、期限後に申告書を出すことができます(国税通則法18条1項)。この期限後申告でも、所得の計算は同じ式で行います。

一方、申告をしないまま税務署の調査を受けると、税務署長が所得税の額を決定します。所得税法156条は、税務署長が決定をするときに、財産や債務の増減、収入や支出の状況、事業の規模などから所得を推計してできると定めています(青色申告書を出した年分の事業所得等は除く)。自分で申告するか、税務署の決定を受けるかで、経費の扱いを誰がどう組み立てるかが変わります。

場面 所得の計算 経費の扱い
自分で期限後申告をする 総収入金額-必要経費(所得税法27条2項) 自分で記録を集めて必要経費を計算する
税務署長の決定を受ける 調査に基づく決定。推計による決定もあり得る(所得税法156条) 調査の中で、帳簿や資料をもとに確認される

期限後申告で納める税額があるときは、原則として無申告加算税と延滞税がかかります。法定申告期限から1か月以内に自主的に期限後申告をし、期限内に申告する意思があったと認められる一定の場合に当たるときは、無申告加算税がかかりません。国税庁は、調査の事前通知の前に自主的に期限後申告をした場合の無申告加算税を、納付すべき税金の5パーセントと説明しています。加算税の割合や延滞税の考え方は「確定申告の期限を過ぎたら?」の記事で扱っています。

記録との関係で知っておきたいのは、令和5年分以降について、調査で帳簿の提示等をしなかった場合や、帳簿への売上金額の記載が本来の2分の1未満だった場合は無申告加算税に10パーセント、3分の2未満だった場合は5パーセントが加算されることです。経費だけでなく売上の記録も、同じ作業の中で作り直す必要があります。また、令和5年分以降は、事前通知の後に期限後申告をした場合や決定を受けた場合に、前年分・前々年分にも無申告加算税が課された(課されるべき)ときは、さらに10パーセントが加算されます。何年分もまとめて申告する場合は、この点も関わります。

経費になる支出の条件:業務との関係と、どの年の経費か

所得税法37条は、必要経費を「総収入金額を得るため直接に要した費用」と「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」と定めています。記録を作り直すときは、1件ずつ次の3点を確かめます。

確かめること 根拠 記録で示すもの
実際に支出したか(または支払う債務が生じたか) 所得税法37条 通帳・カード明細・請求書・領収書
業務について生じた費用か 所得税法37条・45条 何のための支出か(品目、相手先、用途のメモ)
どの年の経費か その年に債務が確定したか(タックスアンサーNo.2210) 納品日・サービスを受けた日・請求日

支払った年ではなく、債務が確定した年の経費になる

国税庁のタックスアンサーは、必要経費になるのは「その年において債務の確定した金額」で、次の3つをすべて満たす場合をいうと説明しています。

  1. その年の12月31日までに債務が成立していること
  2. その年の12月31日までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
  3. その年の12月31日までに金額が合理的に算定できること

何年分かをまとめて申告するときは、通帳の引落し日だけで年を分けると、年をまたぐ支出が別の年に入ってしまいます。たとえば、12月に外注先から作業の引渡しを受け、その代金を翌年1月に振り込んだ場合は、引渡しを受けた年の経費として扱うのが原則です(※説明のための架空の例です。)。商品の仕入れは、年末の在庫(棚卸し)の計算も関わるので、別に整理が必要です。請求書や納品書の日付で、どの年の経費かを確かめます。

私用と混ざった支出は、業務の部分を区分できる場合だけ

家事上の経費とこれに関連する経費は、原則として必要経費になりません(所得税法45条1項1号)。ただし、所得税法施行令96条は、次の部分を必要経費にできるとしています。

申告の種類 必要経費にできる部分(所得税法施行令96条)
白色申告・青色申告に共通 主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要な部分を明らかに区分できる場合の、その部分
青色申告の承認を受けている人 上記のほか、取引の記録等に基づいて、業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分

自宅兼事務所の家賃・光熱費、私用でも使う車や携帯電話の費用は、面積や使用時間など、説明できる基準で業務の部分を区分します。無申告の年の分は、その年の住まいや働き方に合わせて区分の根拠を書き残しておきます。なお、生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃や給与(青色事業専従者給与を除く)は必要経費にならず、所得税や住民税、罰金・科料・過料も必要経費になりません。

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記録が残っていない場合の組み立て直し方

事業所得のある人は、白色申告でも記帳と帳簿書類の保存が必要です。国税庁は、売上げなどの収入金額や仕入れ・経費について、取引の年月日、相手方の名称、金額などを帳簿に記載すること、日々の合計金額をまとめて書くなどの簡易な方法でもよいことを説明しています。無申告だった年の分も、この形の記録を作るのが目標です。

手順

  1. 年分ごとに口座とカードを洗い出す:事業の入出金に使った預金口座とクレジットカードを全部挙げ、それぞれの入出金明細・利用明細を年分ごとに揃えます。紙の通帳が無い期間は、金融機関やカード会社から明細を取り寄せます。
  2. 取引先側の記録を集める:取引先から届いた請求書・納品書(メールやPDFを含む)、通販サイトの購入履歴、契約書を集めます。
  3. 出金を1件ずつ仕分ける:明細の出金ごとに、業務の支出か、私用か、両方にかかわるか(家事関連費)を分けます。
  4. 内容を書き添える:業務の支出には、品目・相手先・用途を書き添えます。明細に店名しか出ないものは、購入履歴や請求書で中身を補います。
  5. 現金払いの分を記録する:領収書が残っていない現金払いは、日付・相手先・内容・金額と、そう判断した根拠(予定表、取引先とのやり取りなど)を記録します。
  6. 年分を確定する:納品日や請求日で、どの年の経費かを決めます(債務確定の3要件)。
  7. 帳簿にまとめる:年分ごとに、売上と経費を帳簿の形に整理します。

資料ごとに分かること・足りないこと

資料 分かること 足りないことと補い方
預金通帳・入出金明細 日付・金額・振込先や引落し先の名称 何の代金か分からないことがある → 請求書・契約書で補う
クレジットカードの利用明細 利用日・店名・金額 品目と業務との関係 → 購入履歴・用途のメモで補う
取引先の請求書・納品書 品目・数量・金額・日付 支払った事実 → 通帳・カード明細と突き合わせる
通販サイトの購入履歴 品目・注文日・金額 業務用か私用か → 用途のメモで補う
手帳・予定表・メール 出張や打合せの日付・相手 金額 → 明細や交通機関の運賃で補う

あとから作った記録は、どの資料をもとに起こしたかを書き添えておくと、税務署から質問を受けたときに説明しやすくなります。作り直した日付を変えたり、実在しない書類を作ったりすることは、記録の信用を失わせるだけでなく、調査で偽りの記載をした帳簿書類を提示・提出することにもなりかねません。

記録で説明できない支出はどう考えるか

領収書が1枚も残っていないことだけで、経費がゼロになるわけではありません。所得税法37条は、領収書の有無ではなく、業務について生じた費用かどうかで必要経費を定めています。ただし、支出の事実と業務との関係を説明する責任は、申告する側にあります。

  • 説明できる支出:通帳やカード明細で支払いの事実が分かり、請求書・購入履歴・メモで業務との関係が分かるもの。必要経費として計上を検討できます。
  • 説明が弱い支出:支払いの事実は分かるが、業務との関係を示すものが無いもの(店名だけの明細、私用と区別できない買い物など)。計上するかどうかは、残っている他の資料と合わせて判断します。
  • 説明できない支出:支払いの記録も業務との関係を示すものも無いもの。必要経費として説明することは難しくなります。

なお、所得税法156条の推計は、税務署長が更正や決定をするときに使える方法として定められているもので、申告する側が「売上の何割を経費とする」と決めてよいという規定ではありません。期限後申告の必要経費は、1件ずつの記録の積み上げで計算します。

申告の種類によって変わる点:消費税と青色申告

消費税の課税事業者だった年

個人事業主は、その年の前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下なら原則として消費税の納税義務が免除されますが、それを超える年や、適格請求書発行事業者の登録を受けている年などは課税事業者です。課税事業者の年は、所得税とは別に消費税の申告も要ります。

消費税の仕入税額控除は、帳簿と請求書等の保存が要件です。消費税法30条7項は、帳簿と請求書等を保存しない場合は、その保存がない課税仕入れの税額には控除を適用しないと定めています(災害その他やむを得ない事情で保存できなかったことを証明した場合などを除く)。所得税の必要経費として説明できる支出でも、消費税の控除は書類の保存の有無で結論が分かれることがあります。

青色申告の承認を受けていた人

青色申告の承認を受けていた人でも、55万円または65万円の青色申告特別控除は、その年分の確定申告期限までに申告書を出すことが要件の1つです。国税庁は、還付申告書等を出す人であっても、この控除を受けるには期限までに提出する必要があると説明しています。55万円・65万円の要件に当たらない青色申告者が受けられるのは10万円の控除です。

なお、これらの控除額は令和8年分までのものです。令和8年度税制改正の大綱では、令和9年分以後の所得税について、e-Taxによる期限内の提出などを要件に控除額を65万円とし、仕訳帳と総勘定元帳の電子帳簿の保存等の要件も満たす人は75万円とする見直しが示されました。あわせて、簡易な簿記で記録している人のうち前々年分の事業所得の収入金額が1,000万円を超える人などは、10万円の控除の対象から外れます。この改正を含む所得税法等の一部を改正する法律は、令和8年3月31日に成立しています。

税理士に依頼するときに揃えておくもの

何年分もの記録を作り直す作業は、資料が揃っているほど早く進みます。依頼する前に、次のものを年分ごとに集めておくと、見積りや作業の範囲も決めやすくなります。

資料 ポイント
事業で使った全口座の入出金明細 私用と兼ねている口座も含める
クレジットカードの利用明細 家族カードや私用のカードで払った業務の支出があれば、それも
売上の記録 請求書の控え、支払調書、プラットフォームの売上明細など
取引先の請求書・納品書、通販サイトの購入履歴 メールやPDFで受け取ったものを含む
家賃・車・携帯電話などの契約書 私用と兼ねる支出の区分の根拠になる
過去に出した申告書や届出の控え 青色申告の承認の有無、消費税の届出の有無を確かめる

税務代理や申告書の作成、税務相談は税理士の業務です。何年分をどの順番で申告するか、どの支出をどの年の経費にするかは、資料を見たうえで判断が分かれる点なので、資料を持って相談すると話が早く進みます。

まとめ:経費は差し引ける。差し引けるかは記録しだい

  • 期限後申告でも、事業所得は総収入金額から必要経費を控除して計算する(所得税法27条2項)
  • 必要経費になるのは業務について生じた費用で、その年に債務が確定したもの。支払った年ではなく債務確定の年で振り分ける
  • 私用と混ざった支出は、業務の部分を明らかに区分できる場合だけ必要経費になる
  • 記録が無い年は、通帳・カード明細・取引先の書類・購入履歴を突き合わせて、1件ずつ記録を作り直す
  • 消費税の仕入税額控除は帳簿と請求書等の保存が要件。55万円・65万円の青色申告特別控除(令和8年分まで)は期限内申告が要件

無申告だった年の経費は、記録を作り直す手間をかけた分だけ説明できる範囲が広がります。売上の記録と合わせて、年分ごとに資料を揃えるところから始めてください。

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よくある質問

Q. 領収書が1枚も残っていませんが、経費はゼロになりますか?

領収書が無いことだけで経費がゼロになるわけではありません。通帳やカード明細で支払いの事実を、請求書・購入履歴・用途のメモで業務との関係を示せる支出は、必要経費として計上を検討できます。どちらも示せない支出は、経費として説明することが難しくなります。

Q. 税務署から連絡が来る前に、自分で申告した方がよいのですか?

期限後申告は、税務署長の決定があるまで出すことができます(国税通則法18条1項)。無申告加算税の割合は、調査の事前通知の前か後か、調査による決定を予知した後かで段階が分かれると国税庁は説明しています。どの段階に当たるかで負担が変わるため、早めに資料を揃えて判断することになります。

Q. 事業用と私用を同じ口座で使っていました。どう分ければよいですか?

出金を1件ずつ見て、業務の支出・私用・両方にかかわる支出に分けます。両方にかかわる支出(家事関連費)は、業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合に、その部分だけが必要経費になります(所得税法施行令96条)。区分の基準(面積・使用時間など)を書き残しておきます。

Q. 期限後申告でも青色申告特別控除は受けられますか?

55万円・65万円の控除(令和8年分まで)は、確定申告期限までに申告書を出すことが要件の1つなので、期限後申告では受けられません。青色申告の承認を受けていて、55万円・65万円の要件に当たらない人が受けられるのは10万円の控除です。

Q. 売上の記録も無いのですが、経費だけ作り直せばよいですか?

経費だけでなく売上の記録も必要です。令和5年分以降は、調査で帳簿の提示等をしなかった場合や、帳簿への売上金額の記載が本来の金額の3分の2未満・2分の1未満だった場合に、無申告加算税が加算される措置があります。入金の明細や請求書の控えから、売上も年分ごとに整理します。

この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月25日

参考資料

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