給与計算と帳簿づけを外に頼むとき、同じ事務所にまとめるか、別々に頼むか迷いますよね。判断の手がかりは、給与データの受け渡しを誰が担い、帳簿の数字を誰が確認するかです。分けて頼む場合も、渡す資料・日程・確認の担当を決めておくと、数字のずれを防ぎやすくなります。
この記事では、給与計算から帳簿への反映、納付までをたどり、依頼先ごとの分担を比べます。従業員から預かった税金や保険料を確かめるポイントも紹介します。
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給与のデータが帳簿に入るまでの流れ
毎月の給与は、勤怠の締めから始まり、給与計算、仕訳、納付の順に進みます。年末にはその1年分を年末調整で精算し、源泉徴収票などの書類を作ります。どの段階でも、前の段階の数字をそのまま使うのが特徴です。
| 段階 | 主な作業 | できるもの | 期限 |
|---|---|---|---|
| 勤怠の締め | 出勤日数・残業時間の集計 | 勤怠データ | 会社が決めた締め日 |
| 給与計算 | 支給額の計算、所得税・住民税・社会保険料の控除 | 給与明細・給与台帳 | 支給日の前 |
| 仕訳 | 給与・預り金・会社負担の保険料の計上 | 帳簿 | 月次の締め |
| 源泉所得税の納付 | 給与から控除した所得税を国へ納める | 所得税徴収高計算書 | 支払った月の翌月10日(納期の特例は年2回) |
| 住民税の納入 | 給与から控除した住民税を市区町村へ納める | 納入書 | 徴収した月の翌月10日(納期の特例あり) |
| 社会保険料の納付 | 従業員負担分と会社負担分を合わせて納める | 保険料納入告知書 | 納付対象月の翌月末日 |
| 年末調整・年末の書類 | 年税額の精算、源泉徴収票・給与支払報告書の作成 | 源泉徴収票・給与支払報告書 | 翌年1月31日 |
源泉所得税の納付期限は、国税庁『源泉徴収のあらまし(令和8年版)源泉徴収制度について』で、その所得を支払った月の翌月10日と示されています。給与の支給人員が常時10人未満で、税務署長の承認を受けた会社は「納期の特例」により、1月から6月分を7月10日、7月から12月分を翌年1月20日にまとめて納めます。
帳簿の側から見ると、給与計算の結果は「支払った給与」と「預かったお金」に分かれます。従業員から控除した所得税・住民税・社会保険料は、納めるまでの間、会社が預かっている状態です。「預り金」などの科目で記録し、納付したときに減らします。会社が負担する社会保険料は、別に費用として計上します。
つまり、給与計算の担当と記帳の担当が別の場合、記帳の担当は「控除額の内訳」と「納付した額」の両方を受け取らないと、預り金の残高を確かめられません。ここが、まとめるか分けるかを考えるときの中心になります。
同じ事務所に頼む場合:受け渡しが依頼先の中で済む
給与計算と記帳を同じ先に頼む場合、給与計算の結果は依頼先の中で仕訳に移ります。会社がするのは、勤怠データや入退社の情報を渡すことと、納付や振込を行うこと(依頼の範囲による)です。
- 給与計算の控除額と、帳簿の預り金を同じ依頼先が照合できる
- 年末調整で出た過不足の精算額が、そのまま帳簿の預り金の動きと結び付く
- 賞与や退職者の住民税の一括徴収など、月によって形が変わる処理も同じ記録の中で追える
一方で、同じ先にまとめても、社会保険と労働保険の手続は別に考える必要があります。社会保険・労働保険の届出書類の作成や提出の代行は、社会保険労務士の業務として社会保険労務士法に定められています(第2条)。社会保険労務士でない者が、他人の求めに応じ報酬を得てこれらを業として行うことは、原則として認められていません(第27条)。
そのため「給与計算と記帳は同じ税理士事務所、資格取得届や算定基礎届は会社自身か社会保険労務士」という分担になることがあります。依頼先が社会保険労務士と連携しているか、届出をどこが担うかは、依頼前に確かめておく点です。税理士と社会保険労務士の業務の違いや依頼のしかたは、給与計算を税理士に依頼する場合の記事で詳しく扱っています。
分けて頼む場合:毎月渡すものを決めておく
給与計算を社会保険労務士や給与計算の代行会社に、記帳を税理士事務所に、と分けて頼む形もあります。この場合、給与計算の結果を記帳の担当へ毎月渡す流れを、最初に決めておくことが欠かせません。決めずに始めると、記帳の担当は給与の振込額しか分からず、控除の内訳が帳簿に出てこない状態になりがちです。
| 渡すもの | 記帳の担当がそれで確かめること |
|---|---|
| 給与台帳(支給項目・控除項目ごとの合計) | 給与の総額、所得税・住民税・社会保険料の控除額 |
| 賞与の支給明細 | 賞与の総額と控除額(毎月の給与と分けて計上するため) |
| 保険料納入告知書の額 | 会社負担分の社会保険料、預り金との差額 |
| 所得税徴収高計算書・住民税の納入書の控え | 納付した額と預り金の減少が一致しているか |
| 入社・退職者の一覧 | 退職月の保険料や住民税の一括徴収など、通常と違う控除 |
あわせて、次の3点も決めておきます。
- 渡す日:給与の支給日から何日以内に、だれがだれへ渡すか
- 渡す形:給与ソフトの仕訳データ(CSVなど)か、給与台帳のPDFか
- 照合の担当:預り金の残高が合わないとき、給与側と記帳側のどちらが原因を調べるか
給与ソフトと会計ソフトを連携させれば、仕訳の入力は省けます。ただし、どの控除をどの科目に出すかという設定と、預り金の照合の担当は、連携しても残ります。
ずれが出やすい3つの箇所
給与計算と記帳を分けたときに、帳簿の数字が合わなくなりやすいのは、「控除した月」と「納める月」が違う項目です。次の3つは、受け渡しの際に特に説明を付けておくと、記帳の担当が迷いません。
社会保険料:前月分を控除し、翌月末日に納める
年金機構『退職した従業員の保険料の徴収』では、事業主は毎月の給与から前月分の保険料を控除できるとされています。納付期限は納付対象月の翌月末日です。たとえば4月分の保険料は5月の給与から控除し、5月末日に納めます。
月末に退職した人は、退職月の前月分と退職月分の2か月分を退職月の給与から控除できるとされています。こうした月は控除額が通常と変わるため、給与側から「なぜこの月は2か月分か」を添えて渡すと、記帳の担当が確かめやすくなります。
住民税:毎年6月に税額が切り替わる
給与から控除する住民税は、市区町村から通知された年税額の12分の1を、6月から翌年5月まで毎月徴収します(地方税法第321条の5)。納入期限は徴収した月の翌月10日です。6月の給与で控除額が変わるため、記帳の側では6月分から預り金の動きが変わります。
また、1月1日から4月30日までの間に退職した人については、残りの税額をまとめて徴収する場合があります(同条第2項)。退職月の住民税の控除額が大きくなるのはこのためです。給与の支払を受ける人が常時10人未満の事業所は、市区町村長の承認を受けて、6月から11月分を12月10日、12月から翌年5月分を6月10日にまとめて納める特例もあります(同法第321条の5の2)。
源泉所得税:納期の特例では半年分がたまる
納期の特例を受けている会社では、源泉所得税の預り金が半年分たまってから納付されます。記帳の担当が特例を受けていることを知らないと、預り金の残高が大きいのを「納め忘れ」と取り違えることがあります。特例の承認を受けているかどうかは、分けて頼むときに必ず共有しておく情報です。
年末の書類はどちらが作るか
年末調整は、その年1月からの給与と控除の合計を使って年税額を精算する手続です。給与計算の記録を持っている側が行うのが自然ですが、精算の結果は帳簿の預り金にも反映させる必要があります。
年末調整の後には、次の書類を作ります。
- 給与所得の源泉徴収票:本人に交付する。税務署へは、令和8年12月31日までに提出するものは翌年1月31日まで(中途退職者は退職後1か月以内)に提出する。令和9年1月1日以後に提出するもの(令和8年分以後)は、市区町村へ給与支払報告書を出せば税務署へ提出したものとみなされる
- 給与支払報告書:1月1日現在で給与を支払っている人について、翌年1月31日までに住所地の市区町村へ提出する(地方税法第317条の6)
国税庁『源泉徴収のあらまし(令和8年版)源泉徴収票及び支払調書の提出』によると、令和9年1月1日以後に市区町村へ給与支払報告書を提出した場合は、そこに記載された給与について税務署への源泉徴収票の提出をしたものとみなされます。令和8年12月31日までは、両方をそれぞれ提出する必要があります。
分けて頼む場合は、年末調整・源泉徴収票・給与支払報告書・法定調書合計表のどれを給与側が作り、どれを記帳側(税理士)が作るかを、年末調整の準備が始まる前に決めておくと、1月31日の期限前に慌てずに済みます。年税額の考え方や控除の判断で迷う点が出たときに、どこまでを税理士側で受け持つかも、依頼範囲として確かめておきます。
まとめるか分けるかを分ける条件
どちらが合うかは、会社の人数や社内の担当者、すでに使っているソフトによって変わります。1つの答えに決まるものではないため、次の表で自社の状況に近い方を確かめてください。
| 確かめる点 | 同じ事務所にまとめる形が合いやすい場合 | 分けて頼む形が合いやすい場合 |
|---|---|---|
| 社内の担当者 | 毎月データを受け渡す人を置きにくい | 給与と経理の受け渡しを担える人がいる |
| 入退社の頻度 | 少なく、社会保険の届出を会社内で処理できる | 多く、社会保険労務士に届出まで含めて頼みたい |
| 使っているソフト | 依頼先が給与と会計の両方を同じ仕組みで扱える | 会社が給与ソフトを使っていて、仕訳データを出せる |
| 就業規則・労務の相談 | 相談の頻度が低い | 勤怠や労務の相談を日常的にしたい |
| 帳簿の締めの早さ | 給与の確定から帳簿への反映を短くしたい | 受け渡しの日程を決めて運用できる |
人数が増えて入退社の届出が多くなると、社会保険労務士への依頼を加える会社もあります。その場合でも、上の「毎月渡すもの」を決めておけば、記帳の流れは崩れません。見積りは、従業員数、給与の締め日と支給日の数、賞与の回数、勤怠データの状態、年末調整や届出を含めるかで変わります。
依頼先を決める前の確認リスト
- 給与計算の範囲:勤怠の集計から行うか、集計済みのデータを受け取って計算するだけか
- 振込データの作成:給与の振込データまで作るか、明細の作成までか
- 社会保険・労働保険の届出:会社自身が行うか、社会保険労務士に頼むか
- 住民税:入社・退職時の届出と、6月の税額の切替えをだれが反映させるか
- 納付:源泉所得税・住民税・社会保険料をだれが、どの方法で納めるか
- 年末:年末調整、源泉徴収票、給与支払報告書、法定調書合計表をどこが作るか
- 照合:預り金の残高をだれが、どのタイミングで確かめるか
この7点が決まっていれば、まとめて頼む場合も分けて頼む場合も、データの流れに抜けがなくなります。記帳と給与計算を含めた外部委託の全体像は、バックオフィスBPOの記事も参考になります。
まとめ:受け渡しの回数と預り金の照合で比べる
- 給与計算の結果は、帳簿では給与と預り金(所得税・住民税・社会保険料)に分かれる
- 同じ事務所にまとめると、控除額と預り金の照合が依頼先の中で済む
- 社会保険・労働保険の届出の代行は社会保険労務士の業務で、まとめても別に担当を決める
- 分けて頼むなら、渡すもの・渡す日・照合の担当を最初に決める
- ずれやすいのは、社会保険料(前月分を控除)、住民税(6月切替え・一括徴収)、源泉所得税(納期の特例)
どちらの形でも、預り金の残高を毎月だれが確かめるかが決まっていれば、帳簿と給与の数字はそろいます。
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よくある質問
Q. 社会保険の手続は会社が自分で行い、給与計算と記帳だけを外部に頼むことはできますか?
できます。社会保険労務士法第27条が制限しているのは、社会保険労務士でない者が他人の求めに応じ報酬を得て届出の作成や提出を業として行うことです。会社が自社の従業員の届出を自ら行うことは、この制限の対象ではありません。その場合、入退社や給与の変動を給与計算の依頼先にも漏れなく伝える必要があります。
Q. 分けて頼んでいて、預り金の残高が合わないときはどこから見ればよいですか?
まず預り金を所得税・住民税・社会保険料に分けて、それぞれ控除額と納付額を月ごとに並べます。社会保険料は、どの月の給与からどの月分を控除し、いつ納めたかを並べると、控除と納付の月のずれが見えてきます。納期の特例を受けている場合は、源泉所得税が最大で半年分たまります。
Q. 年の途中で給与計算の依頼先を変えるとき、何を引き継げばよいですか?
その年1月からの給与台帳(支給額・控除額・源泉所得税の額)、従業員から受け取った扶養控除等申告書、市区町村から届いた住民税の特別徴収税額の通知、各従業員の標準報酬月額が必要です。年末調整は1月からの合計で行うため、前の依頼先の記録が欠けると精算ができません。
Q. 給与ソフトと会計ソフトを連携すれば、分けて頼んでも同じではありませんか?
仕訳の入力は省けますが、どの控除をどの科目に出すかの設定、賞与や退職者の控除が正しく出ているかの確認、預り金の照合は残ります。連携の設定をだれが管理するかを決めておくと、分けて頼んでも数字がずれにくくなります。
この記事は公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
最終更新日: 2026年10月26日
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