決算が近づくと「このままだと税金で持っていかれる」という相談が増えます。ただ、そこで慌てて備品を買い込むと、税金は30万円減ったのに現金は100万円減っていた、という結果になりがちです。
正しい税金対策とは、税額を減らすことではなく、合法的に手元に残るキャッシュを最大化することです。この観点で見ると、優先順位は明確になります。第一に現金支出を伴わない対策、第二に税額を直接減らす税額控除、第三に支出はあるが後で戻ってくる積立です。
2026年は制度面での変化も大きい年です。令和8年度税制改正で少額減価償却資産の特例が40万円未満まで拡大され、中小企業の賃上げ促進税制は最大45%の控除に加えて5年の繰越しが使えます。一方で経営セーフティ共済には解約後の制限が入りました。本記事では、この最新の前提で使える対策を整理します。
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節税には「現金が出ていくもの」と「出ていかないもの」がある
| 種類 | 内容 | 財務への影響 |
|---|---|---|
| 現金が出ていく節税 | 不要な備品購入、無理な広告出稿 | 税額は減るが、それ以上に現金が減る |
| 現金が出ていかない節税 | 未払費用の計上、在庫の評価替え、税額控除 | 現金を維持したまま税額が減る |
| 現金が戻ってくる節税 | 共済への積立 | 一時的に支出するが、将来受け取れる |
法人の実効税率はおおむね30%前後です。つまり100万円の支出で減る税金は30万円程度で、残る70万円は出ていったままです。必要な支出であれば前倒しする価値がありますが、節税のためだけに使うと必ず損をします。
以下では、現金が出ていかないものから順に見ていきます。法人税率の詳細は法人税の税率一覧|中小企業の軽減税率と実効税率の計算をご参照ください。
決算直前でも間に合う「現金が出ていかない」対策
未払費用の計上
決算日までに役務の提供を受けているものの、支払いが翌期になる費用は、当期の経費として計上できます。
- 社会保険料の会社負担分:3月末決算なら、3月分の社会保険料(納付は4月)を未払費用として計上
- 未払給与:20日締め・翌月払いなら、21日から月末までの給与相当額を当期の経費に
- 未払の家賃・水道光熱費・通信費:当期に発生している分
現金の支出は翌期に発生するため、当期のキャッシュは減りません。計上の根拠となる契約書や請求書を揃えておいてください。
棚卸資産の評価損
倉庫に眠っている売れ残りや型落ち品について、著しく陳腐化しているなど一定の事実がある場合は、現在の価値まで評価を引き下げ、差額を損金にできます。
廃棄しなくても、正しく評価するだけで経費になる点がポイントです。ただし「単に売れ行きが悪い」というだけでは認められません。評価損を計上する事実関係(型式が旧式になった、季節商品の時期を過ぎた等)を記録に残しておく必要があります。
貸倒れの検討
回収不能となった売掛金がある場合、一定の要件を満たせば貸倒損失として損金算入できます。取引停止から1年以上経過しているケースなど、要件は細かく定められているため、該当しそうな債権があれば決算前に確認してください。
少額減価償却資産の特例は40万円未満へ拡大
中小企業者等が取得した少額の減価償却資産を、その事業年度に一括で損金算入できる特例です。令和8年度税制改正で内容が変わっているため、取得時期によって扱いが異なります。
| 項目 | 令和8年3月31日までの取得 | 令和8年4月1日以後の取得 |
|---|---|---|
| 対象資産の取得価額 | 30万円未満 | 40万円未満 |
| 年間の損金算入限度額 | 300万円 | 300万円 |
| 適用対象法人 | 常時使用する従業員500人以下等 | 常時使用する従業員400人以下等 |
| 適用期限 | — | 令和11年3月31日まで(3年延長) |
パソコン、デスク、エアコン、ソフトウェアなどが対象になります。40万円未満まで枠が広がったことで、これまで資産計上せざるを得なかったノートPCの上位機種や業務用機器が一括経費の対象に入ってきます。
適用の条件は、決算日までに納品され、事業の用に供していることです。発注しただけ、あるいは納品されたが未開封という状態では認められません。詳細は少額減価償却資産の特例とは?40万円未満を全額経費にする中小企業の節税術で解説しています。
参考:国税庁 No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 / 令和8年度税制改正の大綱|財務省
税額控除は「経費を作る」より効率が高い
経費を100万円増やしても減る税金は30万円程度ですが、税額控除は税額そのものを直接減らします。同じ100万円なら効果はまったく違います。
設備投資については、経営力向上計画の認定を前提に即時償却または取得価額の10%(資本金3,000万円超は7%)の税額控除を選べる中小企業経営強化税制もあります。投資促進税制との使い分けは中小企業経営強化税制とは?即時償却と10%税額控除の選び方で解説しています。
中小企業向け賃上げ促進税制(最大45%控除)
前年度より雇用者給与等支給額を増やした場合、その増加額の一定割合を法人税額から控除できる制度です。
- 基本の控除率:控除対象雇用者給与等支給増加額の15%
- 上乗せ要件を満たした場合:最大45%
- 上乗せの内容:賃上げ率の水準、教育訓練費の増加(全雇用者給与等支給額の0.05%以上であること等)、くるみん・えるぼしなどの認定取得
- 繰越控除:控除しきれなかった額は5年間繰り越せる
繰越しができる点は重要です。賃上げをした年度が赤字で控除しきれなくても、その後5年以内に黒字化すれば使えます。「今期は赤字だから関係ない」と判断せず、要件を満たしているかを確認してください。制度の詳細は賃上げ促進税制を中小企業が使う方法|控除率・上乗せ要件・繰越措置にまとめています。
参考:中小企業向け「賃上げ促進税制」|中小企業庁
中小企業投資促進税制
一定の機械装置やソフトウェア等を取得した場合、次のいずれかを選択できます。
- 特別償却:基準取得価額の30%相当額を普通償却限度額に上乗せ
- 税額控除:基準取得価額の7%相当額(資本金3,000万円以下の法人が対象)
適用期限は令和9年3月31日までに取得して事業の用に供したものです。なお、税額控除を選べるのは資本金3,000万円以下の法人に限られる点に注意してください。資本金3,000万円超1億円以下の中小企業者等は特別償却のみとなります。
特別償却は税金の繰り延べ(先に経費にするだけ)、税額控除は税金そのものの減少です。長期的な効果は税額控除のほうが大きくなります。制度の詳細は中小企業投資促進税制とは?特別償却・税額控除の違いと活用方法をご覧ください。
参考:国税庁 No.5433 中小企業投資促進税制
現金が将来戻ってくる対策
経営セーフティ共済(2026年時点の注意点あり)
月額最大20万円(年間240万円)の掛金が全額損金になり、40か月以上納付すれば解約時に掛金が100%戻ってくる制度です。利益が出ている年に積み立て、赤字の年や大型投資の年に解約することで、利益の平準化に使えます。
ただし、令和6年度税制改正により、令和6年10月1日以後に共済契約を解約した場合、その解約日から2年を経過する日までに支出する掛金は損金算入できません。従来行われていた「解約して受け取り、すぐ再加入して再び損金にする」という運用はできなくなっています。
すでに解約した経験がある場合は、再加入のタイミングを確認してください。制度の詳細は経営セーフティ共済で節税する方法|掛金・解約返戻金・注意点で解説しています。
出張旅費規程と日当
出張が多い会社であれば、旅費規程を整備して日当を支給する方法があります。
- 会社側:支払った日当は損金になり、国内出張であれば消費税の課税仕入れにも該当します
- 受け取る側:通常必要と認められる範囲の日当は所得税が非課税で、社会保険料の算定対象にもなりません
会社と個人の双方に効果がある数少ない手法です。ただし、規程の整備と、金額が同業他社と比べて過大でないことが前提になります。作り方は旅費日当規程の作り方|テンプレート付きで節税効果と注意点を解説をご参照ください。
役員報酬の設計
役員報酬を上げれば法人の所得は減りますが、個人の所得税・住民税と社会保険料が増えます。逆に下げれば個人の負担は減りますが、法人の所得が増えます。
見るべきは、法人と個人を合算した手取りです。社会保険料の負担も含めた試算が必要で、しかも役員報酬は原則として事業年度開始から3か月以内に決めたら期中に変更できません。決算後に気づいても手遅れになる論点です。
脱税と疑われないための3つの鉄則
証憑を電子取引の要件どおりに保存する
メールやWebサイトで受け取った請求書・領収書などの電子取引データは、電子データのまま保存することが原則です。紙に印刷して保管するだけでは要件を満たしません。
要件どおりに保存できない相当の理由があり、税務調査時にデータのダウンロードの求めと出力書面の提示に応じられる場合の猶予措置は設けられていますが、「紙で出しておけば問題ない」という状態ではありません。運用ルールを決めておいてください。
参考:電子帳簿等保存制度特設サイト|国税庁
役員借入金・役員貸付金の公私混同を解消する
会社と社長個人の間の資金の出入りは、税務調査で必ず確認される項目です。貸し借りがある場合は金銭消費貸借契約書を作成し、返済条件と利息を定めて、実態を明確にしてください。役員貸付金が積み上がっている状態は、金融機関の評価にも影響します。
実態のない経費は計上しない
架空の外注費、勤務実態のない親族への給与、実施していない研修費。これらは節税ではなく脱税です。隠蔽または仮装があったと認定されれば重加算税の対象となり、過少申告に代えて35%、無申告に代えて40%が課されます。
経費として認められるかどうかの基準は、その支出が売上を生むためになぜ必要かを説明できるかです。税務署は資金の流れだけでなく、メールのやり取りや成果物といった業務の実態まで確認します。
節税のスケジュール
| 時期 | やること |
|---|---|
| 決算3か月前 | 試算表から年間の着地利益を予測し、対策の候補を洗い出す |
| 決算1〜2か月前 | 設備投資、共済への加入など現金支出を伴う対策を実行する |
| 決算日まで | 資産の納品・使用開始を完了させる(少額減価償却資産の特例) |
| 決算後2か月以内 | 未払費用の精査、税額控除の適用要件の最終確認 |
決算が終わってから相談しても、できることはほとんど残りません。年間の利益が見えてくる第3四半期に一度、着地見込みを確認する時間を取ってください。決算直前の具体策は決算直前でもできる法人の節税対策10選にまとめています。
よくある質問
Q1. 一番効果が高い節税対策は何ですか?
A. 一律にこれとは言えませんが、優先順位としては税額控除が最上位です。経費を100万円増やしても減る税金は30万円程度ですが、税額控除は税額そのものを直接減らします。中小企業なら賃上げ促進税制(最大45%、5年繰越可)と中小企業投資促進税制を先に確認してください。
Q2. 少額減価償却資産の特例は30万円未満ではないのですか?
A. 令和8年度税制改正により、令和8年4月1日以後に取得する資産については40万円未満に引き上げられました。それ以前に取得した資産は従来どおり30万円未満です。年間の損金算入限度額300万円は変わりません。適用期限も令和11年3月31日まで延長されています。
Q3. 経営セーフティ共済は今も節税に使えますか?
A. 掛金が全額損金になる点は変わりません。ただし令和6年10月1日以後に解約した場合、解約日から2年を経過する日までに支出する掛金は損金算入できなくなりました。解約と再加入を繰り返す使い方はできません。新規に加入して積み立てる分には、従来どおり有効です。
Q4. 決算間際でもできることはありますか?
A. あります。未払費用の計上、棚卸資産の評価損、貸倒れの検討は現金支出を伴いません。決算日までに納品・使用開始できる資産があれば、少額減価償却資産の特例も使えます。ただし選択肢は限られるため、本来は決算3か月前に着地を見ておくべきです。
Q5. 節税と脱税の境目はどこですか?
A. 実態があるかどうかです。実際に発生した支出を、法令で認められた方法で正しく計上するのが節税です。実態のない経費を計上したり、売上を意図的に翌期にずらしたりするのは脱税で、隠蔽・仮装と認定されれば重加算税(35%または40%)の対象になります。判断に迷う支出があれば、計上する前に税理士に確認してください。
参考資料
- 国税庁 No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
- 国税庁 No.5433 中小企業投資促進税制
- 中小企業向け「賃上げ促進税制」|中小企業庁
- 令和8年度税制改正の大綱|財務省
- 電子帳簿等保存制度特設サイト|国税庁
会社の税金対策で最初に決めるべきは、順番です。現金が出ていかない対策(未払費用、評価損)から着手し、次に税額控除(賃上げ促進税制、中小企業投資促進税制)を確認し、そのうえで必要な設備投資を前倒しする。この順序を守るだけで、同じ税額でも手元に残る現金は変わります。
2026年は、少額減価償却資産の特例が40万円未満に拡大し、賃上げ促進税制には5年の繰越しがあり、一方で経営セーフティ共済には解約後2年の制限が入りました。前提が動いているため、昨年と同じ判断が今年も正しいとは限りません。
リーパル会計事務所では、1,100社以上の関与実績をもとに、月次で着地利益を把握しながら、現金を減らさない節税をご提案しています。
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監修者: 鳥羽 卓朗(公認会計士・税理士)
リーパル会計事務所 代表。PwCあらた有限責任監査法人出身。1,100社以上の関与実績を持ち、中小企業の税務顧問とクラウド会計導入支援を専門とする。
最終更新日: 2026年7月28日
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