相続税対策は、税額を減らす方法だけを探すと、順番を誤りやすくなります。まず現状の税額を試算し、次に分け方、非課税の枠、評価、納税資金の順に確かめていくと、必要な対策が見えてきます。
この記事は、特定の対策をすすめるものではありません。相続税対策の全体像を、確かめる順番と、各段階で動く金額の例、やってはいけない対策の境目に分けて整理します。金額は、当事務所の無料の相続税シミュレーターと同じ計算で出したものです。
この記事の要点
- 相続税対策は、①現状の試算、②分け方(配偶者・二次相続)、③非課税の枠(保険・贈与)、④評価(不動産)、⑤納税資金の順に確かめます。
- 遺産1億円なら、納付税額の合計は、配偶者と子2人(法定相続分で取得)で315万円、子2人だけなら770万円です。
- 配偶者の取得割合は、一次と二次の合計で見ます。配偶者が全部取ると合計770万円、法定相続分(50%)なら395万円です。
- 暦年贈与は、亡くなる日で戻される期間が変わり、最長7年です。2031年6月に亡くなる場合、毎年110万円を7年続けた770万円のうち670万円が戻ります。
- 評価額と時価の差だけを狙った不動産の購入や、養子の人数を増やすだけの対策は、否認される場合があります。
相続税対策とは|「減らす」の前に確かめること
相続税対策というと、税額を減らす方法だけを思い浮かべがちです。実際には、「知る(税額の試算)」「払える(納税資金)」「分けられる(分割と合意)」「減らす(税額の対策)」の4つが関わり、1つの対策が他に影響することがあります。
「減らす」ことだけを優先すると、納税の現金が足りなくなったり、家族の取り分で揉めたりする可能性があります。そのため、先に「知る」、最後に「払える」を確かめる順番にします。次の5つの手順が、その順番です。
効果の出る順番|5つの手順の全体図
相続税は、課税価格の合計から基礎控除を引き、法定相続分で分けたと仮定した金額に税率を掛けて、総額を出します(相続税法15条・16条)。その総額を、実際に財産を取得した人の課税価格の割合で分けます。この仕組みから、確かめる順番は次のようになります。
| 手順 | 確かめること | 動く数字 | 制約・期限 | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|---|
| ①現状の試算 | 財産の合計・法定相続人の数・基礎控除 | 課税遺産総額 | みなし財産・7年以内の贈与・名義預金も含める | 相続税がかかる財産/相続税の計算方法 |
| ②分け方 | 配偶者と子の取得割合、二次相続 | 一次と二次の合計 | 申告期限(10か月)までの分割、遺留分 | 二次相続とは/配偶者の税額軽減 |
| ③非課税の枠 | 保険金・退職手当金の枠、贈与の特例 | 課税価格 | 契約の形、贈与の期限、7年加算 | 生命保険金の相続税/暦年贈与 |
| ④評価 | 自宅の土地の特例、不動産の評価 | 課税価格 | 特例の要件・申告・評価方法の見直し | 小規模宅地等の特例/土地の評価 |
| ⑤納税資金 | 現預金・保険金・売却できる財産で、税額を払えるか | 払える額(税額は変わらない) | 申告期限・延納・物納の要件 | 相続税の納付 |
①で試算してはじめて、②〜④のどこに金額が動く余地があるかが分かります。②〜④は同じ財産を別の面から見たものなので、1つずつ決めて足し合わせる前に、まとめて試算して比べます。⑤は、①〜④で決まった税額が、実際に払えるかの確認です。
手順①|現状の相続税を試算する
財産を洗い出す
試算の入口は、財産の一覧です。預貯金・有価証券・不動産に加えて、次の財産も課税価格に入ります。
- 死亡保険金や死亡退職金などの「みなし相続財産」。被相続人が保険料を負担した保険契約の保険金などが対象です(相続税法3条1項)。
- 亡くなる前の一定期間内に受けた暦年課税の贈与。受け取った人が相続や遺贈で財産を取得する場合に、加算対象期間内の贈与が戻ります(相続税法19条1項、国税庁 No.4161)。
- 名義が家族でも、被相続人が資金を出して管理していた預貯金など。名義にかかわらず被相続人の財産と認められるものは、相続税の課税対象です(国税庁「相続税の申告の誤りやすい事例⑥」)。
範囲の詳しい一覧は、相続税がかかる財産の一覧|みなし相続財産・名義の違う預金・7年以内の贈与までで整理しています。債務や葬式費用は、財産から差し引けます。
法定相続人の数と、基礎控除を確かめる
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(相続税法15条1項)。相続放棄があっても、放棄がなかったものとして数えます。養子は、実子がいれば1人、いなければ2人までです。数え方は、相続税の基礎控除|3,000万円+600万円×法定相続人の数え方と人数別の早見で説明しています。
試算の目安|遺産額と家族構成
配偶者と子2人(配偶者が法定相続分どおり取得)と、子2人だけの場合の、納付税額の合計の目安です。配偶者と子2人の基礎控除は4,800万円、子2人だけは4,200万円です。小規模宅地等の特例や非課税枠は使わない前提です。
| 遺産額(課税価格の合計) | 配偶者と子2人 | 子2人だけ |
|---|---|---|
| 5,000万円 | 10万円 | 80万円 |
| 6,000万円 | 60万円 | 180万円 |
| 8,000万円 | 175万円 | 470万円 |
| 1億円 | 315万円 | 770万円 |
| 1億5,000万円 | 747万5,000円 | 1,840万円 |
| 2億円 | 1,350万円 | 3,340万円 |
| 3億円 | 2,860万円 | 6,920万円 |
配偶者がいると、配偶者の税額軽減で、配偶者の分の税額は0円になります。そのため、同じ遺産額でも、配偶者がいる家族の納付税額の合計は小さくなります。遺産5,000万円は、配偶者と子2人なら10万円、子2人だけなら80万円です。より細かい金額の組合せは、相続税の早見表|遺産額×家族構成別(配偶者あり・なし、子1〜4人)にあります。
遺産が基礎控除以下なら、相続税の申告も納税も要りません。この判定に使う課税価格の合計は、小規模宅地等の特例を適用しない場合の金額です(国税庁 No.4205)。基礎控除以下の場合の手続きは、相続税がかからない場合の手続き|申告不要でも必要なことと、後で困らない記録で説明しています。
試算がぶれやすい3つの点
- 不動産の評価:路線価方式か倍率方式か、小規模宅地等の特例を使えるかで、課税価格が大きく変わります。
- 7年以内の贈与:亡くなる日によって、戻される期間が変わります。
- 名義預金など、名義と実質が違う財産:申告に含める財産が、見落とされやすい部分です。
分け方ごとの税額と二次相続を比べられる、当事務所の無料の相続税シミュレーターで、ご家族の数字を入れて試算できます。
手順②|分け方を決める|配偶者・子の取得割合と二次相続
配偶者が取得した財産は、配偶者の税額軽減で、法定相続分か1億6,000万円のどちらか多い額までは、相続税がかかりません(相続税法19条の2第1項)。ただし、この軽減は、申告期限までに分割された財産が対象です。
分割が未了の財産は、申告期限から3年以内に分割した場合に、その分が対象になります(同条2項)。この場合は、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておきます。申告後に分割が成立したときは、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内に、更正の請求をします(相続税法32条1項)。国税庁 No.4158 は「分割が成立した日の翌日から4か月以内」と案内しています。
軽減を受けるには、申告書に適用を受ける旨と計算の明細を記載し、書類を添付する必要があります(相続税法19条の2第3項)。
配偶者の取得割合を高くすると、一次の税額は下がります。しかし、配偶者が亡くなる二次相続では、配偶者の税額軽減がなく、基礎控除も減ります。一次だけで判断せず、一次と二次の合計で比べます。遺産1億円・配偶者と子2人(配偶者に固有の財産はない)の例です。
| 配偶者の取得割合 | 一次の納付税額 | 二次の納付税額 | 一次+二次の合計 |
|---|---|---|---|
| 0% | 630万円 | 0円 | 630万円 |
| 40% | 378万円 | 0円 | 378万円 |
| 50% | 315万円 | 80万円 | 395万円 |
| 100% | 0円 | 770万円 | 770万円 |
配偶者が全部取ると一次は0円ですが、二次が770万円になり、合計は770万円です。法定相続分(50%)なら合計は395万円で、40%の行は378万円です。10%刻みの全体の表と、配偶者の財産・生活費を変えた場合は、二次相続とは|一次相続との合計で税金が変わる理由と計算例で並べています。
合計が小さい分け方が、配偶者の生活や家族の合意に合うとは限りません。分け方は、共同相続人の協議で決め、まとまらなければ家庭裁判所に請求します(民法907条)。遺言の書き方は遺言書と相続税|遺言の種類ごとの違いと、税金で失敗しない書き方、遺産分割協議書は遺産分割協議書の書き方|ひな形と、相続税の特例に必要な記載で説明しています。
手順③|非課税の枠を確かめる|保険金・退職手当金と贈与の特例
生命保険金・死亡退職金の非課税枠
相続人が受け取った死亡保険金と退職手当金等には、それぞれ「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります(相続税法12条1項6号・7号)。非課税になるのは、相続人が受け取った分だけです。相続を放棄した人は、枠を使えません(国税庁 No.4114)。
預金の一部が保険金に替わっていた場合に、税額がどう動くかの例です。相続人が子2人の場合で、預金等1億円のとき(保険金なし)と、預金等8,000万円と保険金2,000万円のときを比べます。
| 財産の内訳 | 保険金の非課税 | 課税価格の合計 | 課税遺産総額 | 相続税の総額 |
|---|---|---|---|---|
| 預金等1億円 | 0円 | 1億円 | 5,800万円 | 770万円 |
| 預金等8,000万円+保険金2,000万円 | 1,000万円 | 9,000万円 | 4,800万円 | 620万円 |
ただし、保険には保険料の支払いがあり、保険金の受取人は契約で決まります。相続税の対象になるのは、被相続人が負担した保険料の割合の部分です(相続税法3条1項1号)。契約の形で、相続税以外の税が関係する場合もあります。詳しくは、生命保険金の相続税|非課税枠「500万円×法定相続人の数」と計算例と死亡保険金の税金は契約者で変わる|相続税・所得税・贈与税の3パターンで説明しています。
贈与の特例|期限と、相続税に戻る部分
贈与の特例には、贈与税が非課税になるものと、相続の時に戻されるものがあり、制度ごとに期限が違います。2026年10月時点の主な制度は次のとおりです。
| 制度 | 内容 | 期限・注意 | 相続税への影響 |
|---|---|---|---|
| 暦年課税の基礎控除 | 受け取る人ごと・1年ごとに110万円(租税特別措置法70条の2の4) | 110万円以下なら贈与税はかからない(国税庁 No.4408) | 加算対象期間内の贈与は、110万円以下でも相続税の課税価格に加算される |
| 相続時精算課税 | 年110万円の基礎控除と、累計2,500万円の特別控除。超えた分は20%(国税庁 No.4103) | 選んだ贈与者からの贈与は、以後すべてこの制度。暦年課税に戻せない | 相続の時に、贈与時の価額(110万円の基礎控除部分を除く)を加算する |
| 贈与税の配偶者控除 | 婚姻期間20年以上の配偶者から、居住用不動産か取得資金の贈与で、最高2,000万円(相続税法21条の6) | 贈与の翌年3月15日までに居住。同じ配偶者からは一生に1回 | 控除額に相当する部分は、相続税に加算されない(国税庁 No.4161) |
| 住宅取得等資金の贈与 | 省エネ等住宅1,000万円、それ以外500万円まで非課税(措置法70条の2) | 2024年1月1日から2026年12月31日までの贈与。贈与の翌年3月15日までに住宅を新築等し、同日までに居住(同日後遅滞なく居住する見込みでも可。ただし翌年12月31日までに居住しないと、原則として適用できない)(国税庁 No.4508) | 非課税の適用を受けた金額は、相続税に加算されない(国税庁 No.4161) |
| 教育資金の一括贈与 | 1,500万円まで非課税 | 2026年3月31日までの契約・拠出で新規の適用は終了。既に適用を受けた分は継続(国税庁 No.4510) | 贈与者の死亡時の管理残額は、課税される場合がある |
| 結婚・子育て資金の一括贈与 | 1,000万円まで非課税(結婚関係は300万円) | 2027年3月31日まで(国税庁 No.4511)。金融庁の令和9年度税制改正要望に、廃止が挙がっている(未確定) | 贈与者の死亡時の管理残額は、課税される場合がある |
暦年贈与が相続税に戻る期間
暦年贈与は、相続税の計算に戻される期間が、亡くなる日で決まります。亡くなる日が2026年12月31日までなら3年、2027年1月1日から2030年12月31日までは2024年1月1日から亡くなる日まで、2031年1月1日以後は7年です(国税庁 No.4161)。延長された部分の贈与は、受け取った人ごとに、合計から100万円を引いて加算します。
毎年12月に110万円ずつ贈与した場合の例です。
| 亡くなる日 | 贈与の内容 | 相続税に加算される額 |
|---|---|---|
| 2028年6月30日 | 2024年〜2027年の各12月に110万円ずつ(計440万円) | 340万円 |
| 2031年6月30日 | 2024年〜2030年の各12月に110万円ずつ(計770万円) | 670万円 |
贈与税がかからない110万円以下の贈与でも、加算対象期間内であれば、相続税の計算に戻ります。贈与の期間や相手によって有利・不利は変わります。自分の場合に当てはめて比べるには、次の記事をご覧ください。
- 生前贈与加算は7年に|亡くなった日で何年分が戻るか(経過措置の早見表)
- 相続時精算課税|2024年からの年110万円の基礎控除と、選ぶ前の注意点
- 暦年課税と相続時精算課税はどちらが得?財産額・年数・相手別の比べ方
贈与を記録に残す方法は、贈与契約書の書き方|ひな形と、名義預金とみなされないための残し方で説明しています。
手順④|評価を確かめる|自宅の土地の特例と、不動産の評価
小規模宅地等の特例|自宅の土地の評価額が下がる
被相続人や生計を一にしていた親族が、住んでいた宅地や事業に使っていた宅地には、一定の面積まで評価額を減らす特例があります(租税特別措置法69条の4)。
| 区分 | 限度面積 | 減額の割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(自宅の敷地) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% |
併用する場合の面積の調整や、取得者の要件(同居・居住の継続・保有の継続など)があります(国税庁 No.4124)。適用を受けるには、申告書に適用を受ける旨を記載し、遺産分割協議書の写しなどを添付する必要があります。取得者が複数いる場合は、全員が選択に同意し、原則として申告期限までに分割されていることも必要です。
数字の動きを見る例です。相続人は子2人(配偶者はいない)、遺産は自宅の土地5,000万円(200㎡)、建物1,000万円、預金4,000万円です。同居の子Aが土地だけを取得し、子Bが建物と預金を取得するとして、特例の要件を満たす場合と、満たさない場合を比べます。
| 小規模宅地等の減額 | 課税価格の合計 | 相続税の総額 | |
|---|---|---|---|
| 要件を満たす場合 | 4,000万円 | 6,000万円 | 180万円 |
| 要件を満たさない場合 | 0円 | 1億円 | 770万円 |
要件を満たすかどうかで、同じ財産でも相続税の総額が大きく変わります。要件の判定は、小規模宅地等の特例の要件|配偶者・同居の親族・家なき子の判定表と小規模宅地等の特例|自宅の土地が8割減になる要件と計算例の表で確かめられます。
土地・建物・マンションの評価
宅地の評価は、市街地的な地域では路線価方式、それ以外は倍率方式です(財産評価基本通達11)。倍率方式は、固定資産税評価額に、国税局長が地域ごとに定める倍率を掛けます(同21)。家屋は、固定資産税評価額に別表の倍率を掛けて評価します(同89)。計算の流れは、土地の相続税評価額の計算|路線価方式と倍率方式を例で解説で例を使って解説しています。
分譲マンションは、2024年1月1日以後の相続・遺贈・贈与で取得したものについて、区分所有補正率を使って評価します(国税庁 No.4667)。区分建物の登記がされていないもの(一棟所有の賃貸マンションなど)や、総階数(地階を除く)が2以下の建物などは、対象外です。詳しくは、マンションの相続税評価|2024年からの新しい計算(区分所有補正率)と計算例で解説しています。賃貸している土地や建物の評価は、アパート・貸家の相続税評価|貸家建付地と借家権割合で下がる仕組みで説明しています。
貸付用不動産の評価の見直しは、案の段階
令和8年度税制改正大綱は、貸付用不動産について、課税時期前5年以内に取得・新築したものなどを、通常の取引価額で評価する方針を示しています。適用は、2027年1月1日以後の相続などで取得する財産からの予定です(財務省 令和8年度税制改正の大綱)。
国税庁は、2026年9月18日に「貸付用不動産の評価について」の通達案を公表し、意見募集を2026年10月18日に締め切りました(e-Govパブリック・コメント 案件番号410080055)。2026年10月23日時点で、国税庁の新着情報に正式な通達は見当たりません。内容が変わる可能性があるので、決まったものとして計画に入れないでください。
手順⑤|納税資金を確かめる|現金で払えるか
相続税の納期限は、申告期限と同じです。相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内で、税金は金銭で一度に納めるのが原則です(相続税法27条1項・33条、国税庁 No.4205)。財産が自宅の土地などに偏っていると、税額が小さくても、払う現金が足りない場合があります。
相続人が子2人で、財産の合計の評価額が同じ1億円でも、内訳で、税額と、払える現金が変わる例です。
| 財産の内訳 | 相続税の納付額の合計 | 現預金・保険金など | ポイント |
|---|---|---|---|
| 預貯金・有価証券1億円 | 770万円 | 1億円 | 現金で払える。非課税枠・特例は使っていない |
| 自宅の土地5,000万円・建物1,000万円・預金4,000万円(特例の要件を満たす。子Aが土地、子Bが建物と預金を取得) | 180万円 | 預金4,000万円(子Bが取得) | 土地だけを取得する子Aは30万円、建物と預金を取得する子Bは150万円 |
| 同上(特例の要件を満たさない) | 770万円 | 預金4,000万円(子Bが取得) | 預金4,000万円に対して、税額が大きい |
| 預金6,000万円・死亡保険金4,000万円 | 620万円 | 預金6,000万円と保険金4,000万円 | 保険金の非課税1,000万円を使う |
自宅の土地が財産の大半を占める場合は、その土地を取得する人が現金を受け取らないと、税額を払えない場合があります。上の表の個人別の税額は、子Aが土地だけ、子Bが建物と預金を取得する前提です。取得する財産の組合せが変われば、個人別の税額も変わります。誰がいくら払うか、その人がどの財産を取得するかを、分け方と一緒に決めます。
金銭で一度に納めることが難しい場合は、延納と物納があります。延納は、相続税額が10万円を超え、金銭で納付することを困難とする事由があり、担保を提供する場合に、年賦で納める制度です(相続税法38条、国税庁 No.4211)。物納は、延納によっても金銭で納付することが困難な場合に認められます(同41条)。どちらも、申告書の提出期限までに、税務署に申請書などを提出します。許可はその後に出ます(国税庁 No.4205)。手続きは、相続税の納付|期限・延納・物納と、払えない時の方法で説明しています。
やってはいけない対策|否認や追徴につながる6つの形
次の6つは、税額を減らす目的で行っても、否認や追徴の対象になり得るものです。実際の判断は、事実関係ごとに行われます。
| 対策の形 | なぜ問題になるか | 根拠 | 関連する記事 |
|---|---|---|---|
| 借入で不動産を買い、評価額と時価の差だけで税額を下げる | 評価通達の定めで評価することが著しく不適当と認められる財産は、国税庁長官の指示を受けて評価する。最高裁は、通達の評価額を上回る価額での評価を適法とした(表の下で説明) | 財産評価基本通達6、最高裁令和4年4月19日判決(民集76巻4号411頁) | アパート・貸家の相続税評価|貸家建付地と借家権割合で下がる仕組み |
| 養子の人数を増やして、基礎控除などの人数を増やす | 養子の数を人数に入れることが負担を不当に減少させる結果になると認められる場合は、人数に入れずに税額を計算できる | 相続税法63条、相続税法基本通達63-1・63-2 | 養子縁組と相続税|基礎控除の人数の上限と、孫養子の2割加算 |
| 預金の名義だけを子や孫に移す | 名義にかかわらず、被相続人が資金を出しているなど被相続人の財産と認められるものは、相続税の課税対象 | 国税庁「相続税の申告の誤りやすい事例⑥」 | 名義預金|子・孫名義の預金が相続財産になる判断基準と税務調査 |
| 亡くなる直前に、暦年贈与で財産を移す | 加算対象期間内の贈与は、110万円以下でも相続税の課税価格に加算される | 相続税法19条1項、国税庁 No.4161 | 生前贈与加算は7年に|亡くなった日で何年分が戻るか(経過措置の早見表) |
| 財産を隠す・仮装する | 財産などの事実を隠蔽・仮装して申告すると、過少申告加算税に代えて重加算税が課される場合がある。配偶者の税額軽減の計算にも、隠蔽・仮装行為に関する制限がある | 国税通則法68条、相続税法19条の2第5項 | 相続税の税務調査|時期・調査が入る割合・よく指摘される点 |
| 同族会社を使って、税負担を不当に減らす | 同族会社の行為・計算で、株主などの相続税の負担を不当に減少させる結果になるものは、税務署長が課税価格を計算し直せる | 相続税法64条 | 個別の判断が必要(税理士に相談) |
借入で買った不動産と、最高裁の判断
最高裁令和4年4月19日判決の事実。購入・借入れがなければ課税価格の合計が6億円を超えるところ、通達評価では2,826万1,000円となり、相続税の総額が0円になる事案でした。
判断。最高裁は、通達の方法による評価額を上回る価額で評価しても平等原則に違反しないとして、更正処分を適法としました。通達評価額と鑑定評価額の間に大きなかい離があることだけでは、通達の方法で評価しない事情にはあたらないとしています。
そのうえで、購入・借入れによって税負担が著しく軽減されることを挙げました。被相続人と相続人らがその軽減を知り期待して購入・借入れを企画・実行したことも挙げて、通達の方法による画一的な評価は他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせると判断しました。
乖離の率や借入額の数値基準は示していません。個別の事実で判断されます。
自分の家に当てはめる確認表
次の表の「はい」が多いほど、その手順を詳しく確かめる必要があります。
| 確認する点 | はいの場合に見る記事・条文 |
|---|---|
| 財産の合計が、基礎控除(3,000万円+600万円×人数)を超えそうか | 相続税の計算(相続税法15条・16条) |
| 配偶者がいて、二次相続も考えるか | 配偶者の取得割合と二次の合計(手順②) |
| 死亡保険金や退職金を受け取る相続人がいるか | 非課税枠(相続税法12条1項6号・7号) |
| 子や孫に暦年贈与をしている、またはする予定があるか | 加算対象期間(相続税法19条1項) |
| 自宅の土地に、同居の親族や配偶者が住み続けるか | 小規模宅地等の特例の要件(措置法69条の4) |
| 貸している不動産や、最近買った不動産があるか | 貸付用不動産の評価の見直し案(2027年1月1日以後の相続等が対象の予定) |
| 財産の大半が不動産で、現預金が少ないか | 納税資金(延納・物納の要件) |
| 家族名義の預金や、贈与の記録がない移動があるか | 名義預金の判断(国税庁の誤りやすい事例⑥) |
| 養子縁組を検討しているか | 人数の上限と2割加算(相続税法15条・18条・63条) |
| 遺言があるか、分け方の合意ができそうか | 遺産分割(民法907条)、配偶者の税額軽減の要件 |
税額の試算から申告まで任せたい場合は、当事務所の相続税申告のページ(全国オンライン対応)をご覧ください。
よくある質問
相続税対策は、いつから始めればよいですか。
決まった時期はありませんが、期限や期間が関係する制度があります。暦年贈与の加算期間は、亡くなる日で3年から7年へ延びます。住宅取得等資金の非課税は、2026年12月31日の贈与までです。結婚・子育て資金の一括贈与は、2027年3月31日までです。貸付用不動産の評価の見直しは、2027年1月1日以後の相続等が対象の予定です。どれを使うかを決める前に、まず現状を試算することが先になります。
遺産が基礎控除以下なら、対策は要りませんか。
今の財産が基礎控除以下でも、財産が増える場合や、配偶者の二次相続で基礎控除が減る場合があります。たとえば配偶者と子2人の基礎控除は4,800万円ですが、子2人だけになると4,200万円です。申告が要るかの判定は、小規模宅地等の特例を適用しない場合の課税価格の合計で行います(国税庁 No.4205)。
生前贈与と生命保険は、どちらが有利ですか。
どちらが有利とは言い切れません。贈与は、加算対象期間・贈与税・精算課税の選択で結果が変わります。保険は、非課税枠(500万円×法定相続人の数)の範囲、保険料の負担、契約の形で変わります。財産の額、年齢、家族構成を入れて、複数のパターンで試算して比べます。
不動産を買うと、相続税は下がりますか。
評価の方法によっては、取得価額より評価額が低くなる場合があります。ただし、評価額と時価の差だけを狙った購入は、否認された例があります(最高裁令和4年4月19日判決)。貸付用不動産の評価は、2027年1月1日以後の相続等から見直される予定です。現金が不動産に替わることで、納税資金が減る点も確認が必要です。
まとめ
- 相続税対策は、現状の試算、分け方、非課税の枠、評価、納税資金の順に確かめます。税額を減らす前に、まず知り、最後に払えるかを見ます。
- 同じ遺産1億円でも、家族構成と分け方で税額は変わります。配偶者と子2人の法定相続分なら315万円、子2人だけなら770万円です。
- 贈与の特例は、期限があり、相続の時に戻される部分があります。保険金の枠は、相続人が受け取った分に限られます。
- 評価額と時価の差だけを狙った購入、養子の人数増加、名義預金は、否認や課税の対象になり得ます。
- 対策の効果は、財産と家族の状況で変わります。複数のパターンを試算して比べてから決めます。
手順ごとの詳しい記事も、あわせてご覧ください。
- 一次と二次の合計を比べる:二次相続とは
- 養子の人数の上限を確かめる:養子縁組と相続税
- 申告の期限と流れを確かめる:相続税の申告
監修
本記事は、公認会計士・税理士の鳥羽卓朗が監修しています。
参考にした法令・資料
- 相続税法(e-Gov法令検索):3条(みなし相続財産)、12条(保険金・退職手当金の非課税)、15条・16条(基礎控除・相続税の総額)、19条(生前贈与加算)、19条の2(配偶者の税額軽減)
- 相続税法(e-Gov法令検索):21条の6(贈与税の配偶者控除)、27条・32条・33条(申告・更正の請求の特則・納付)、38条・41条(延納・物納)、63条・64条(否認)
- 租税特別措置法(e-Gov法令検索):69条の4(小規模宅地等)、70条の2(住宅取得等資金)、70条の2の4(暦年課税の基礎控除)
- 国税通則法(e-Gov法令検索):68条(重加算税)
- 民法(e-Gov法令検索):907条(遺産分割)
- 財産評価基本通達6(国税庁)、同11、同21、同89
- 国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)、No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
- 国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
- 国税庁 No.4124 小規模宅地等の特例
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税、No.4211 相続税の延納
- 国税庁 No.4667 居住用の区分所有財産の評価
- 国税庁 No.4508 住宅取得等資金の贈与の非課税、No.4510 教育資金、No.4511 結婚・子育て資金、No.4452 配偶者控除
- 国税庁「相続税の申告の誤りやすい事例⑥ 被相続人以外の名義の財産(預貯金)」
- 最高裁判所 令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号・相続税更正処分等取消請求事件)
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱(二 資産課税)、金融庁 令和9年度税制改正要望(結婚・子育て資金の廃止)、e-Govパブリック・コメント 案件番号410080055(貸付用不動産の評価の通達案)
この記事は2026年10月時点の法令・通達に基づいて書いています。
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